化学と歴史のネタ帳

身近にひそむ化学と歴史を,高校までの知識をベースに解説する化学史系ブログです.

浄水(2):ろ過の歴史

水をきれいにするもっとも原始的な方法のひとつに,ろ過があります.

理科実験でもろ紙でろ過してきれいにした経験があるのではないでしょうか?


浄水において,ろ過は粒子を取り除くだけでなく病原菌も取り除くのにも使われます.


今回はろ過技術の発展の歴史を中心に,それぞれのしくみをみていきましょう.




浄水(1):にごりをとるには?
浄水(2):ろ過の歴史
浄水(3):ろ過や塩素による消毒
浄水(4):いろんな消毒方法
浄水(5):ガスを追い出すには?
浄水(6):活性炭・微生物の活用
浄水(7):化学の力で軟水にする
浄水(8):軟水化の歴史
浄水(9):いろんな無機物の除去
浄水(10):パイプを腐食から守る
浄水(11):フッ素で虫歯予防?
浄水(12):究極の水,超純水

1.沈殿とろ過

前回も見たように,水源から得られる水には必ずといっていいほど不純物の微粒子が含まれています.このような水を放っておくと,やがてある程度大きな微粒子が沈殿しはじめます.一方で,サイズの小さい微粒子はなかなか沈殿しません.


粒子のサイズと沈殿時間には以下のような関係があります.

微粒子の直径 物質の例 沈殿時間
10 mm 砂利 0.3 秒
1 mm 粗い砂粒 3秒
100 μm 細かい砂 38 秒
10 μm 沈泥 33分
1 μm 微生物 55時間
100 nm コロイド 230日
10 nm コロイド 6.3年
1 nm コロイド 少なくとも63年

注:2.65Gで1フィート(約30 cm)沈殿するのにかかる時間


1 μm以下になってくると,現実的な時間では沈殿させられないことがわかります.このような小さな粒子を特にコロイド粒子と呼びます.コロイド粒子の場合,前回確認したように凝集剤をいれることでコロイドを凝集させてより大きな粒子に変換して沈殿させることができます.


また金属イオンなど粒子状になっていないものについても,化学反応により沈殿するような固体粒子に変換させることができます.


結果として,水中に含まれる微粒子や不純物は何らかの方法によって沈殿させることができます.これらを効率的に取り除くのが,ろ過と呼ばれる方法です.

ろ過層につかわれる材料としては,けい砂SiO2,ガーネット[Mg, Fe, Mn, Ca]3[Cr, Al, Fe]2(SiO4)3,イルメナイトFeTiO3などが使われます.他にも粒状活性炭が使われます.


ろ過による不純物の除去では,単純にサイズの大小による除去というのもありますが,ほかにもろ材とのvan der Waals力や静電相互作用により不純物がくっつくことによる除去もあります.

2.ろ過の歴史

ろ過が不純物を取り除くのに有効であることは古くから知られていました.


例えば紀元前2000年のインドでは水を砂や砂利でろ過してきれいにする方法についての伝承がありますし,紀元前5世紀のギリシアではヒポクラテス (Hippocrates, 前460頃-前370頃) が"ヒポクラテスの袖"と呼ばれる布で沸騰させた雨水をろ過する器具を開発しています.


公共水道においては,大きな沈澱池貯水槽を用意し,そこで不純物を沈殿させるのが最も簡単でした.


ガイウス・ユリウス・カエサル (Gaius Iulius Caesar, 前100-前44) はかつての協力者であるポンペイウス (Gnaeus Pompeius Magnus, 前106-前48)と対決しエジプトの都市アレクサンドリアにたどり着きました.彼はそこで紀元前47年に,ナイル川から引いた水が一度沈澱池にためられ,不純物を沈殿させたあとのきれいな上澄みの水を供給している様子を目撃しました.

旧アニオ水道 (前272-前269) By Alessandro.P.76 - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=88973633

その後ローマ帝国では水道橋による水道システムを着々と発展させ,95年にローマの公共水道関連の責任者となったセクストゥス・ユリウス・フロンティヌス (Sextus Julius Frontinus, 40頃-103)アレクサンドリア同様,水源から引いてきた水の中の不純物を沈殿させて取り除くための貯水槽を導入しました.こうしてローマ帝国では洗練された水道システムが導入され,住民は水を日常的に飲んでいました.


しかしローマ帝国衰退以後,巨大な水道システムが失われると,人々は井戸や川の水を使うようになりました.水が病気の原因と考えられるようになると,特にヨーロッパ中央部では水をろ過してまで飲もうとする人は少なくなってしまいました.


古代ローマ帝国の洗練された水道システムは失われてしまったものの,一部の地域では貯水槽の改良を続けていたようです.


アドリア海の女王と呼ばれるヴェネツィアは,アドリア海に浮かぶ100を超える島々からなる都市です.水は雨水に頼るのがメインで,何百もの貯水槽が設置されていました.貯水槽には砂によりろ過を行うサンドフィルターが備えられており,ヴェネツィアの人々は雨水をろ過してきれいな水を使用していました.

ドゥカーレ宮殿 中庭 By Benh LIEU SONG - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43315779


ろ過機能のある貯水槽のうちもっとも有名なものはドゥカーレ宮殿にあるものでしょう.宮殿は9世紀に建てられたのち何度か壊され,1550年に一応の完成をみました.サンドフィルター付き貯水槽がいつごろ完成したかはわかりませんが,17世紀にはすでにあったと考えられます.雨水やボートで運んできた水はここできれいにろ過され,異臭や異味のとりのぞかれた水を得ることができていたようです.


イタリア人医師のルーカス・アントニウス・ポルティウス (Lucas Antonius Portius, 1639-1723) は,ヴェネツィアに赴任していたときにこの貯水槽を知ったようです.彼は1684年にウィーン(ハプスブルク帝国に移りましたが,その頃ハプスブルク帝国は前年の第二次ウィーン包囲戦をきっかけとしてオスマン帝国と交戦状態(大トルコ戦争)にありました.そこで彼は兵士の健康状態をキープするための方策を検討し,きれいな水を戦地でも得られるようなろ過技術を開発しました.彼は自然にみられる砂ろ過やドゥカーレ宮殿の貯水槽を参考にしたようです.


18世紀になると,医療関係者によって水は体に悪い*1どころか良いものだという宣伝が多くみられるようになります.


極端な例だと,イギリス人医療作家のジョン・スミスが水は健康に良く,飲めば痛風天然痘・ペストなどが治る,自殺願望も治療できるなどと著書に書いていました.さすがにこの例は極端ではありますが,他にも様々な医療ライターが水の効能を宣伝し,やがて水は健康に良いという意識が受け入れられていきました.


そしてこの時期,各国で浄水技術が発展しました.


フランス*2では1703年に,パリの科学者フィリップ・ド・ラ・イール (Philippe de La Hire, 1640-1718)がパリのすべての家庭にサンドフィルターと雨水貯水槽を設置する計画をフランス科学アカデミーに提案しました.さらに同じくフランスの科学者Joseph Amyは1746年に水をろ過するためのフィルターを設計します.1750年までには,スポンジや炭,羊毛でできたフィルターを一般家庭でも購入することができるようになっていました.Jean Baptiste Molin de MontbruelやNicolas Ferrandが1763年に実施したようにパリの浄水場にもサンドフィルターが採用されていきます*3.このように,フランスでは18世紀に一気に浄水技術が発展します.


この頃のイギリスといえば産業革命です.染料や燃料,綿,工業製品の工場が水力を利用可能な水源近くに無数に建てられ,きれいだった水源に廃棄物が毎日どんどん捨てられるようになってしまいました.これにより工場を中心に急速に発展した町では水回りの問題が深刻化しました.
【参考】浄水(3):ろ過や塩素による消毒

安全な水を供給する公共水道事業の重要性に気づいたスコットランドの技術者ロバート・トム (Robert Thom, 1774-1847) は,1804年にスコットランドのペイズリーで初の浄水場を稼働させます.浄水場にはサンドフィルターによるろ過設備が設置されていました.その後イギリスやスコットランドでは様々なろ過設備が稼働を開始します.


水に対する社会の意識が一気に高まり,国の態度も変化して公共水道事業に本腰を入れ始めます.そして緩速砂ろ過と呼ばれる新たな技術がイギリスで誕生します.

3.緩速砂ろ過法

浄水に使われるろ過では,特に2つのろ過方法が重要です.遅いろ過(緩速砂ろ過法)と速いろ過(急速砂ろ過法)です.19世紀イギリスでは,まず緩速砂ろ過法が発明されました.

緩速砂ろ過 By Z22 - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=33794242

緩速砂ろ過法は18世紀ごろイギリスのランカシャーでつかわれていた砂ろ過を使ったランカシャーフィルターを発展させたもので,1827年ロバート・トムが設計したものがスコットランドのGreeenockで,1829年ジェームズ・シンプソン (James Simpson, 1799-1869) が設計したものがロンドンで稼働しはじめました.のちに緩速砂ろ過法として広まっていったのはシンプソンのデザインによるものです.ヨーロッパで開発されたので,特にコンチネンタル・フィルターとも呼ばれます.


スタンダードな緩速砂ろ過法では,まず原水中の大きな微粒子 (10 μm以上)を沈殿池で8-24時間かけてゆっくりと沈殿させます.次に上澄み水を砂ろ過池に引き込んで,重力により自然と砂中にしみこませ,1日に3-4 mくらいの速度でゆっくりとろ過します.下から出てきた水を集め,通常はそのあと殺菌工程に入ります.


このとき,砂ろ過池の砂層表面にはろ過により分離された好気性微生物(細菌や藻類)が数mmほど積もってゼラチン状の微生物ろ過膜(Schumutzdecke)を形成します*4

この微生物ろ過膜は大腸菌サルモネラ菌ジアルジア症の原因となるランブル鞭毛虫の嚢胞などを取り除くろ過膜として働きます.さらに,生物分解性の有機物や,鉄・マンガンイオン,アンモニアなどを酸化,分解することもできます.これらは河川の自浄作用と同じです.


このように緩速砂ろ過法ではさまざまな微粒子,有機物,無機物などを取り除くことができる優れた方法でした.特に微生物ろ過膜による病原菌の除去は,感染症の拡大を阻止するうえで非常に重要な機能でした.


19世紀,イギリスはフランスとの植民地争奪戦に勝利した結果,インドやカナダを得て海外に広大な植民地を得て世界中に貿易を展開し,大英帝国としておおいに繁栄していました.しかし1830-40年代,皮肉にもこの貿易路を通じてインドで発生したコレラがイギリス本土に上陸し,猛威をふるいます.

初期段階ではコレラが水を介して感染するということはわかっておらず,空気感染するんじゃないかとまで言われていました.


やがてロンドンの医師ジョン・スノウ (John Snow, 1813-1858) らが汚染したテムズ川の水を飲んでいる地区の人々がコレラに高頻度でかかっていることを発見します.これによりテムズ川からの水の汲み出しは中止され,水の衛生が重要課題となりました.


そして1852年にはロンドンの浄水設備においてろ過が初めて義務化されました.ろ過による浄水が普及することにより,伝染病拡大に歯止めがかかりました.


他国でも緩速砂ろ過法が伝染病拡大を防ぐのに役立ちました.ドイツのハンブルクでは1890年代に緩速砂ろ過によってコレラ感染を防ぐことができるということが実証されました.一方アメリカのマサチューセッツ州ではチフスの感染を減少させることに成功しました.


このように不純物も除去でき,伝染病の拡大を防ぐことができるなど万能に思えた緩速砂ろ過法ですが,欠点もあります.例えば水中の不純物が多すぎると微生物ろ過膜がすぐに分厚くなってろ過スピードが極端に落ちてしまったり,生物分解性有機物やアンモニアの濃度が高すぎるとすぐに水中の酸素を消費しきってろ過膜中の好気性微生物がはたらけなくなってしまいます.


そのため,19世紀に広まった緩速砂ろ過浄水場は20世紀の急速に進行した水質汚染によってつかえなくなり,姿を消してしまいました.

4.急速砂ろ過法

アメリカでは緩速砂ろ過の普及が南北戦争 (1861-1865) によって中断した後,浄水設備の開発がどんどん進められていきました.ポンプで加圧してろ過速度を上げる機械式ろ過もその一つです.機械式ろ過の開発にはJohn Hyatt (1837-1920) などが携わっていました.


1880年代のアメリカでは,硫酸アルミニウムや鉄化合物をはじめとした化学物質によりコロイドを凝集・沈殿させる手法が盛んに研究されていました.L.H. Gardner大佐も研究していた1人で,ニューオーリンズでの実験からにごった水をきれいにするには凝集剤を加えるのが良いと結論づけていました.
【参考】浄水(1):にごりをとるには?


一方John Hyattの兄であるIsaiah Smith Hyatt (1835-1885) ミシシッピ川の水を工場で使うためになんとかきれいにできないかと苦労していました.ある時Gardnerが凝集剤を使うことを提案してくれました.そこで早速試したところ,非常にうまくいきました.そして1884年Hyattは凝集とろ過を組み合わせた方法の特許を取得しました.


そして1885年,ニュージャージー州Hyatt兄弟それぞれが開発していた凝集処理機械式ろ過を組み合わせた浄水設備が稼働しはじめます.凝集剤には鉄化合物が使われました.


残念ながら兄のIsaiah Smith Hyattはこの年に亡くなってしまいますが,弟は研究開発を続けます.彼はろ過砂に鉄やアルミニウムによる凝集物をまぜて人工ゼラチン膜をつくり微生物ろ過膜のかわりにしようと考えました.一定の成果は得たようですが,長時間運転は難しいということで結局この方法は頓挫してしまいました.


代わりに1896年,George W. Fuller (1868-1934) が「薬品を入れて急速攪拌しコロイドを凝集,沈殿池で沈殿させ,残った微フロックを含む上澄みの水を砂層でろ過する」という手法を確立します.これが急速砂ろ過法です.

急速砂ろ過 J o - Photo taken by J o., CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49085107による

このようにアメリカで開発された急速砂ろ過法はコンチネンタル・フィルター(緩速砂ろ過法)に対して,アメリカン・フィルターと呼ばれることもあります.急速砂ろ過法を用いれば,よりにごった原水でも浄化することができました.


急速砂ろ過法では,原水に鉄やアルミニウムの凝集剤を加えて激しくかきまぜ,コロイドを凝集させます.凝集させたコロイドを弱くかきまぜ続けると,沈殿させられるくらい大きなかたまり(フロック)になります.


沈殿池で大きなフロックを沈殿させたのち,小さい微フロックを含む水を急速砂ろ過池に引き込みます.ろ過速度は1日に120-150 mと,緩速砂ろ過に比べて40倍以上の速さです.


急速砂ろ過池では,砂ろ過層内部で微フロックと砂表面が接触凝集し,微フロックが取り除かれます.緩速砂ろ過法では不純物が砂層表面で取り除かれるのに対し,急速砂ろ過法では砂層内部で取り除かれるのが大きな違いです


急速砂ろ過法と緩速砂ろ過法は組み合わせて使用することもできます.実際,リオン水道,アムステルダム水道,チューリッヒ水道では急速砂ろ過法によりまず不純物を除去したのち,緩速砂ろ過法により臭味・微量の鉄やマンガン・微量の生物分解性有機物・アンモニアを取り除く二段砂ろ過システムが用いられています.


急速砂ろ過法は20世紀半ばには緩速砂ろ過にとってかわっていきました.

5.膜ろ過

20世紀になると,膜ろ過と呼ばれる新しい技術が生まれました.文字通り膜によるろ過なのですが,膜にあいている穴の大きさが非常に小さいのが特徴です.

0.1 μmくらいの穴があいている精密ろ過膜は,藻類や原生動物,バクテリアなどを除去することができます.0.01 μmくらいの穴があいている限外ろ過膜はより小さなコロイド粒子やウイルスを除去することができます.


さらに小さい1 nmほどの穴があいたナノフィルターはCa2+やMg2+を取り除くことができ,ほとんど穴の空いていないような逆浸透膜ではNa+やCl-を取り除くことができます.


逆浸透膜は水分子は透過させる一方,水に溶解したイオンなどはほとんど透過させません.このような膜は特に半透膜と呼ばれます.半透膜によって薄い溶液と濃い溶液を隔てた場合,薄い溶液から濃い溶液へ水分子が移動し,濃い溶液を薄めようとする浸透作用がはたらきます.水の移動は浸透圧と液面の差による圧力が等しくなるまで続きます.



ここで濃い溶液側に浸透圧より高い圧力を加えてみます.そうすると今度は濃い溶液から薄い溶液へ水分子が移動します.このような現象を逆浸透と呼びます.逆浸透を利用することで,不純物を除去して純粋な水を得ることができます.


膜ろ過は1920年代に特許が取得されたのち,最初のうちは微生物を除去したり,タンパク質などを除去する目的で研究開発されていました.この頃はまだ小規模なスケールでの実践だったようです.


1950年代以降はもっと大規模に膜ろ過が行われるようになります.主な目的としてはジュースやアルコール類,植物油などの滅菌です.

逆浸透膜 By Twhair - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=36829194

この頃のアメリカでは「20世紀末にはアメリカは水不足になって将来があぶない」という危機感が広まり,海水を淡水化する研究が盛んにおこなわれていました.その中で,1953年にフロリダ大学のC.E. Reidが逆浸透膜による海水の淡水化を提唱します.そして1960年代には逆浸透膜を用いることで実用的なレベルでの淡水化に成功しました.これ以降,Dupont社を中心に膜がいろいろ開発されていきました.

Cryptosporidium parvum

このような技術は高純度が求められる半導体製造時の洗浄水や原子力発電所で使用する水の製造にも積極的に使用されていきました.
浄水(12):究極の水,超純水


飲料水用の浄化に注目されはじめるのは1980年代です.


このころ,ジアルジア症を引き起こすGiardia lambliaクリプトスポリジウムを引き起こすCryptosporidium parvumといった化学物質に抵抗を示す病原性微生物の存在が再確認され,アメリカで数十万人規模の感染が発生し,問題となりました*5.これらの微生物のオーシスト(成熟卵嚢子)が塩素消毒でも滅菌しきれず,急速砂ろ過法でも完全に取り除ききれなかったのが原因だったようです*6


一方で膜ろ過はオペレーターの技量によらずほぼ確実にこのような微生物やその卵を除去することができるということがわかりました.そこで最近になって膜ろ過設備の設置が急速に進んできました.大量生産によりコストがもっと安くなっていったのも普及を後押ししました.

6.まとめ

ろ過によって水をきれいにする方法も意外と奥が深かったですね.個人的には,微生物の力も関わってくるあたりが驚きでした.


水と人類の関わりについてはこのほかにも面白い話題がいろいろありますので,興味のある方は是非一度調べてみてください.


次回はろ過や塩素による消毒の仕組みと歴史を見てみましょう.

問題

Q. NaCl(分子量58.4),SrSO4(分子量184),グルコース(分子量180)の1000 mg/L水溶液があるとき,浸透圧(有効数字2桁)を計算してみましょう.ただし浸透圧Πは以下の式で表されます.Cは濃度 (mol/L),Rは気体定数(8.31 × 103 Pa・L/(mol・K),Tは温度(K)です.
 \mathrm{ \Pi = 0.95 \times CRT}


A. 計算すると,NaClは7.9 × 104 Pa, SrSO4は2.5 × 104 Paグルコースは1.3 × 104 Pa

NaClやSrSO4は電離して2分子になるので2倍の濃度で計算することに注意しましょう.これらは同じ質量濃度でも分子量が小さい方が浸透圧が高いことがわかります.また,スクロースとSrSO4は分子量が似ていてもSrSO4は電離するので浸透圧が高くなっていることに注意しましょう.



参考文献

Chemistry of Water Treatment, 2nd edition” S.D. Faust and O.M. Aly (1998).
”MWH's Water Treatment: Principles and Design, 3rd edition" J.C. Crittenden, et al. Wiley (2012).
"Water Quality and Treatment, 5th edition" R.D. Lettermen, The American Water Works Association (1999).
“Drinking Water and Health, Volume 1” National Research Council (US) Safe Drinking Water Committee (1977).
”The Quest for Pure Water" M. N. Waker, The American Water Works Association (1948).
『都市・地域 水代謝システムの歴史と技術』丹保憲仁,鹿島出版会 (2012).
『水処理工学の基礎』丹保憲仁,小笠原紘一,日本水道新聞社 (2019).
『古代の技術史』R.J. Forbes (2004).


目次 - 化学と歴史のネタ帳

*1:アイザック・ニュートンジョン・ロックも水を飲むことに否定的だったと言われています.

*2:1190年,フィリップ2世 (Phillipe II Auguste, 在位1180-1223) がパリを市壁で囲んでから,Romainvilleの泉から水を引き,Pré Saint-Gervaisに貯水槽を持っていたSaint-Lourent修道院やBellevilleの水道を修復したSaint-Martin des Champs修道院などがパリに水を供給するようになりました.こうした給水システムは,中世都市でよくみられました.

*3:この浄水設備はエアレーションも採用した画期的なものでしたが,そこまできれいな水の需要はあまりなかったようで売れ行きは芳しくありませんでした.

*4:しばらくすると微生物ろ過膜が分厚くなりすぎるので,1-6ヶ月に一度定期的に取り除く必要があります.また,この下の層にも根足虫や繊毛虫をはじめとした生態系が存在します.

*5:日本では1996年に埼玉県越生町で8800人が感染しています.

*6:ちなみに緩速砂ろ過ではある程度除去が可能です.