化学と歴史のネタ帳

身近にひそむ化学と歴史を,高校までの知識をベースに解説する化学史系ブログです.

花火のしくみ(4):フラッシュ,スパーク

花火では,炎色反応の光のほかにも様々な光が活用されています.


特に金属粉末は可燃剤として炎の温度を上げるだけでなく,酸化物が白色光を発しますので,火花の美しい噴出花火や手持ちスパークラー,ナイアガラ瀑布などで利用されています.


今回は,金属粉末を活用したフラッシュ,スパークなどの光をみていきましょう.




花火のしくみ(1):花火の燃焼
花火のしくみ(2):花火の色
花火のしくみ(3):線香花火
花火のしくみ(4):フラッシュ,スパーク
花火のしくみ(5):点滅花火
花火のしくみ(6):笛音
花火のしくみ(7):開発音,雷音,パチパチ音
花火のしくみ(8):煙
花火のしくみ(9):蛇玉の歴史
【参考】黒色火薬の歴史(1):火薬と花火

1.フラッシュ

ピカッと強烈に光る白色のフラッシュは,金属粉末の瞬間的な燃焼で得られます.

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MgAlなどの金属粉末は燃焼時に大量の熱を発生し,2000℃以上の高温に達します.このとき,生成物のMgOAl2O3などの金属酸化物も高温の粒子となり,可視光全域にわたって強い連続光を放射し,白色光にみえます.

酸化剤としてはKClO4がよくつかわれます.
 \mathrm{3KClO_4 + 8Al \longrightarrow 3KCl +4 Al_2O_3}


一方,硝酸バリウムBa(NO3)2も酸化剤としてつかわれますが,これは生成物のBaOがMgOなどと同様の原理で白色光を発するためです.
 \mathrm{3Ba(NO_3)_2 + 10Al \longrightarrow 3BaO +3N_2 + 5 Al_2O_3}


これらは瞬間的に光るフラッシュの原料ですが,長く光る白色光もあります.MgNaNO3の組み合わせは,その一例です.酸化剤であるNaNO3を過剰に混ぜると,ゆっくり反応が進行します.
 \mathrm{5Mg + 2NaNO_3 \longrightarrow 5MgO + Na_2 O + N_2}

照明や信号がわりに使われることもあるようです.


ちなみにかつてカメラのフラッシュで使われていた閃光粉は,KNO3が酸化剤としてつかわれていました.まぶしくはあるのですが,他と比べて光はそんなに強くないので花火にはあまり使われないようです.化学反応式は以下の通りです.
 \mathrm{2KNO_3 + 5Mg \longrightarrow K_2 O + N_2 + 5MgO}

このように,酸化剤の選択が白色光の燃焼特性にとって重要であることがわかります.

2.スパーク

噴出花火のように,まばゆい火花(スパーク)が吹き出すタイプの花火があります.
特殊効果などでも使われますね.

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線香花火や手持ちスパークラーなども,火花が美しい花火です.誕生日ケーキに刺さってたりしてますね.

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線香花火の回で紹介したように,これらの火花の正体は燃焼したところから放出された高温の液体や固体の粒子です.


炎の温度は通常2000-3000℃ですから,Fe,Al,Tiなどの酸化物は液体の粒子になります.

金属酸化物 融点 沸点
FeO 1377 3417
Al2O3 2042 3527
TiO2 1870 3827

Al2O3,TiO2などは白色に,FeOは温度によって金色から白色に輝きます.ナイアガラ瀑布ではAl2O3の白い火花がワイヤーロープから連続して落下し,火花の滝をつくりだします.


きれいなスパークの生成には,いい感じのサイズの粒子が,燃えきる前に飛び出すことが重要です.そのため,あまり強くなく,かつ気体を発生させるBa(NO3)2KNO3がよく使われます.


例えばBa(NO3)2,Fe,Alなどの組み合わせでは,下記反応でAlが燃焼したのち,
 \mathrm{3Ba(NO_3)_2 + 10Al \longrightarrow 3BaO +3N_2 + 5 Al_2O_3}
発生したN2によって,熱せられたFe粒子が飛び出し*1明るいスパークを生じます.


ちなみに,最近はNH4ClO4,ニトロセルロース、Tiの組み合わせの低温花火が注目を集めています.NH4ClO4とニトロセルロースによる燃焼反応でTi粒子が飛び出し,空中で酸素と反応してできた高温のTiOが光ります.
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もっとも,低温とはいえ燃焼温度は500℃以上の高温に達しますので,決してさわらないようにしましょう*2

3.まとめ

このように配合によって,いろんな光を生み出せます.また火花を主体にする場合は,いかに火花を飛ばすか,という点も重要だということがわかりました.


今後も金属粉末を用いた新しい花火がどんどん出てくると思いますので,ぜひ注目してみましょう.


次回は仕組みが不思議な点滅花火についてみてみましょう.


問題

Q.金色のスパークを発生させるBa(NO3)2,Fe,Alなどの組み合わせでは,吸湿によりBa(NO3)2が分解して熱が発生する可能性がある.
 \mathrm{3Ba(NO_3)_2 + 16Al + 36H_2O \longrightarrow 3Ba(OH)_2 +16 Al(OH)3 + 6NH_3}
上記反応はアルカリ性で加速されるため,弱酸の少量ホウ酸が加えられる.
しかしHClなどの強酸を添加してはいけない.なぜか?


A.FeやAlが強酸と反応して変化してしまうため.
 \mathrm{Fe + 2HCl \longrightarrow FeCl_2 + H_2}
 \mathrm{2Al + 6HCl \longrightarrow 2AlCl_3 + 3H_2}

ちなみにホウ酸を加える理由については,Al粒子の表面を覆うAl2O3の層はアルカリよりも弱酸に耐性があり,またホウ酸と反応してできるAl2B2O6の層はAl2O3の層よりも保護効果が高く,Ba(NO3)2と水との反応が防がれるという理由もあるようです.

参考文献

『花火の科学と技術』丁 大玉,吉田 忠雄 著,プレアデス出版 (2013).
『花火の科学』細川 政夫,細川 文夫 著,東海大学出版 (1999).
"Chemistry of Pyrotechnics: Basic Principles and Theory" Mocella, C., Conkling, J.A. (2019).
"Chemistry of Fireworks" Russell, M.S. (2009).
"Hazardous Chemical Combinations: A Discussion" Jennings-White, C., Kosanke, K. (2012).
"Experimental study on the display performances of cold light fireworks" Xue-cheng, F., Fire Science and Technology, 6, 468-472, 2011.
"Influence of Primary Combustion Components on Cold Light Fireworks" Zheng, Z. Procedia Engineering, 45, 633-637, (2012).



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*1:おそらくFeO.

*2:実際,500℃の火花が生じることがあるようです.