プロパンガスによるガスバーナーの炎は最高で1925℃に達することを以前紹介しました.
【参考】炎(1):アルカリ金属
一方で,アセチレンを用いると炎の温度は2300℃に達します.空気の代わりに酸素ガスを用いるとアセチレン炎の温度は3100℃にまで上昇します.
なぜこのような違いがでるのでしょうか?
今回は炎の温度の計算方法について,みていきます.
炎(1):アルカリ金属
炎(2):アルカリ土類金属,銅
炎(3):炎の温度の計算?
炎(4):ガスバーナーの炎の色
炎(5):ロウソクの炎の色
炎(6):Mgの白色光?
炎(7):ロウソクのはじまり
炎(8):近代的なロウソク
炎(9):天然ガスの発見
炎(10):石炭ガス
炎(11):ガス灯の普及
炎(12):石炭から天然ガスへ
炎(13):ブンゼンバーナー
炎(14):アセチレンの登場
炎(15):アセチレン炎の利用
1.燃焼とは
そもそも燃焼とは何でしょうか?
教科書的には,「物質が酸素と化合し,熱や光を発する現象」です.反応としては酸素と化合する酸化還元反応に分類されます.
酸化還元反応には,他に鉄がさびる現象などがあります.
しかし反応速度がとても遅いため,発熱をともなっても熱の放散のほうが速く,実際には温度があまり上昇しません.したがって,燃焼には発生する熱だけでなく,速さも重要ということですね.
ちなみに気体などの発生で圧力が急激に上昇する場合は爆発と呼ばれます.衝撃波がともなう場合は爆燃,衝撃はがともなう場合は爆ごうという名称がつきます.
2.プロパンガスの炎の温度
プロパンガスの燃焼は以下の化学反応式であらわされます*1.
この燃焼熱の値から,炎の温度を計算できないでしょうか?
燃焼熱が外部に失われることなく加熱に使われるものと仮定すると,理論的な燃焼温度を計算することができます.
プロパンが空気中で完全燃焼して炎中はCO2とH2Oのみになったとします.空気の組成はO2 20%,N2 80%とします.
以下のような経路を考えましょう.
I. 初期温度25℃ (298K) のまま,プロパンが完全燃焼して熱が発生する.
II. 圧力一定のまま,燃焼熱がCO2,H2O,N2の加熱に使われる.
まずIについて,燃焼熱は2045 kJです.1 molのプロパンを完全燃焼させるには5 molの酸素が必要ですから,空気はその5倍である25 mol必要です.そのうち,窒素は20 mol含まれています.
先程の反応式を,あえて窒素も入れて考えてみましょう.すると以下のようになります.
すると,IIでは1 molのプロパンから発生した燃焼熱2045 kJが3 molのCO2,4 molのH2O,20 molのN2の加熱に使われることになります.
物質iの定圧モル比熱が以下の式で表されるとしましょう.
ここで,各物質の係数は以下の通りとします.
温度が Kまで上昇したとすると,式1,2より*2,
ここで,各係数は以下の通りです.
実際にこの方程式を解くと,となります.四次方程式の解は,こちらのサイトで求めました.
四次方程式の解 - 高精度計算サイト
少し実際の温度 (1925℃) より高いですが,悪くない値といえるでしょう.
3.アセチレン炎の温度
さて,アセチレン炎の温度について考えてみましょう.
【参考】炎(15):アセチレン炎の利用
空気と混合し完全燃焼させる場合,反応式は以下のようになります.
温度が Kまで上昇したとすると,
となり,係数は以下のようになります.
したがって,アセチレン-空気炎の温度はとなります.実際の温度は2300℃ほどですから,かなり高くなってしまいました.
アセチレン-酸素炎の温度については,窒素のぶんをぬいて計算すればよいので,となります.これも実際の3100℃と比べると,かなり外れてしまっています.
なぜこのようなことがおきたのでしょう?
以前も紹介したように,炎中では以下の反応に注意する必要があります.
さらに高温では水素や酸素の解離反応も無視できなくなります.
これらは吸熱反応ですので,燃焼熱の大部分がこれらの反応に吸収され,炎の温度が下がります.実際に3100℃付近ではCO2の約80%がCOに解離し,H2Oは50%近くが,酸素や水素もそれぞれ20%,10%程度が解離しています.
これらの吸熱反応や,燃焼に使われなかった酸素のぶんを考慮すると,おおよそ実際の炎の温度に近い値が求められるようです.
4.まとめ
エンタルピーを用いれば,いくつか条件の簡略化は必要なものの,おおよその炎の温度が見積もれることがわかりました.一方で,炎中では温度に応じて分子の解離反応がたくさん起きていることも学びました.
酸化剤などを利用すると炎の温度を上げることができます.花火では炎色反応で鮮やかな色を引き出すのに炎の温度が重要です.
【参考】花火のしくみ(2):花火の色
【参考】黒色火薬の歴史(1):火薬と花火
次回は炎そのものの色について,まとめられたらと思います.
問題
Q. 炎中の平衡反応(式3, 4, 5)について,以下のように平衡定数を定める.
を,とと平衡定数を用いてあらわせ.
A. 与えられた条件式より,
したがって,
実際には,ここから式6,7を考慮してHやOなどの収支を考え,組成を決定していきます.
参考文献
"Flame Spectroscopy" Mavrodineanu, R. and Boiteux, H. (1965).
"Flames: Their Structure Radiation and Temperature" Gaydon, A.G. and Wolfhard, H.H. (1960).
『花火の科学と技術』丁 大玉,吉田 忠雄 著 (2013).